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福井地方裁判所 平成5年(わ)233号 判決

被告人

1 法人の名称

奥武建設工業株式会社

本店所在地

福井市大東二丁目一番五号

代表者の氏名

奥村武龍

代表者の住居

福井市三郎丸一丁目一二〇四番地の二

2 氏名

奥村武寅

年齢

昭和二五年三月三〇日生

本籍

福井市松城町一二〇一番地

住居

福井市高木二丁目一〇〇一番地の二一

職業

会社員

検察官

長谷川鉱治

主任弁護士(私選)

吉村悟

弁護人(私選)

菅野昭夫

主文

被告人奥武建設工業株式会社を罰金八〇〇〇万円に、被告人奥村武寅を懲役二年に処する。

被告人奥村武寅に対し、この裁判確定の日から四年間刑の執行を猶予する。

理由

(犯罪事実)

被告人奥武建設工業株式会社は、福井市大東二丁目一番五号に本店を置き、建築土木工事の請負などを目的とする資本金一〇〇〇万円の株式会社であり、被告人奥村武寅は同会社の代表取締役として業務全般を統括していたものであるが、被告人奥村武寅は同会社の業務に関し法人税を免れようと考え、架空外注工事費を計上するなどの方法により所得を隠した上

第一  昭和六三年一一月一日から平成元年一〇月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額が一億九八二八万三一三九円(別紙1の当該事業年度分の修正損益計算書参照)であったのに、平成元年一二月二七日福井市春山一丁目六番一号の福井税務署において、同税務署長に対し、所得金額が八九五万八四七五円で、これに対する法人税額が二六九万三〇〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額八二二〇万九五〇〇円(別紙2の当該事業年度分のほ脱税額計算書参照)と申告税額との差額七九五一万六五〇〇円を免れ

第二  平成元年一一月一日から平成二年一〇月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額が二億二三六四万三八四八円(別紙1の当該事業年度分の修正損益計算書参照)であったのに、平成二年一二月二六日前記福井税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一七三五万九四〇円で、これに対する法人税額が五八五万三八〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額八八三七万一〇〇〇円(別紙2の当該事業年度分のほ脱税額計算書参照)と申告税額との差額八二五一万七二〇〇円を免れ

第三  平成二年一一月一日から平成三年一〇月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額が二億八六二七万六六五〇円(別紙1の当該事業年度分の修正損益計算書参照)であったのに、平成三年一二月二七日前記福井税務署において、同税務署長に対し、所得金額が三一五八万七八五四円で、これに対する法人税額が一〇七四万二九〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額一億六二五万一三〇〇円(別紙2の当該事業年度分のほ脱税額計算書参照)と申告税額との差額九五五〇万八四〇〇円を免れた。

(証拠)

全部の事実について

一  被告人の

1  公判供述

2  検察官調書(検察官請求証拠番号乙一から四)

一  竹内笑子(四通)、竹内雄一郎、水上裕美、奥村利子、奥村紗世、杉本通恭の検察官調書

一  証明書(三通)

一  査察官調査書(前記番号甲五から八四)

(法令の適用)

1  被告人奥武建設工業株式会社

罰条 各事業年度につき法人税法一六四条、一五九条一項

情状により同法一五九条二項

併合罪加重 刑法四五条前段、四八条二項

2  被告人奥村武寅

罰条 各事業年度につき法人税法一五九条一項

併合罪加重 刑法四五条前段、四七条、一〇条

執行猶予 刑法二五条一項

(量刑の理由)

本件は被告人両名の法人税法違反事件であるが、ほ脱した法人税額の合計は二億五七五四万二一〇〇円と高額で、しかも、ほ脱率は九三パーセントと高率である。犯行の方法は架空外注工事費の計上によるものであるが、被告人奥村武寅は、架空外注工事費の計上によるほ脱の方針を経理係に指示したり、自ら妻や知人等に架空の領収書や請求書を作成させるなどしており、犯行において果たした役割は大きい。動機面でも、本件のような多額かつ高率のほ脱事犯の量刑の上で特に考慮しなければならないような事情はない。この種事犯は、国家財政に損害を与えると共に真面目な納税意欲を損なう危険性が高く、被告人両名、特に、被告人奥村武寅の刑事責任は重く、同被告人については詐欺罪による執行猶予付懲役刑の前科もあることなども考え合わせると、この際は実刑に処して、厳しい反省を求めるべきとも考えられる。

しかし、犯行の手口は比較的単純で、ほ脱により得た資金もバックリベートや給与等の簿外経費に主に使用され、残りはそのまま預金されるなどしている。発覚後自主納税するなどして本税、重加算税等を納付しており、被告人奥武建設工業株式会社においても、会計事務所の指導も受けて、再犯防止の措置をとっている。事件が報道され、元請けから指名停止処分を受けるなど社会的制裁も受けている。また、被告人奥村武寅も、事実を認め、本件を反省し、今後二度と犯罪をしないことを誓っており、これまで仕事は真面目で、鳶として優れた技術を持ち、社会的な貢献もしていることなど酌むべき事情もある。

そこで、以上の事情のほか、同種事件の量刑例も参照した上、被告人両名を主文の刑とし、被告人奥村武寅については今回に限り刑の執行を猶予するが、猶予期間は長期とした。

(求刑 被告人奥武建設工業株式会社につき罰金八〇〇〇万円、被告人奥村武寅につき懲役二年)

(裁判官 安江勤)

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